2013年2月24日日曜日

人間を描けているかどうか

ワンピース好きですか? 


今では一巻出るごとに400万部以上販売され、累計では2億8000万部を超えます。
少なくとも記録では断トツで史上最高の漫画、という地位です。

でもそんなことはどうでもよくて、とにかく面白いんです。

で、なんでこんなに魅力的なんだろうって考えてたら思いだしたことがあった。


尾田さんは以前ある雑誌でバガボンドの井上雄彦さんと対談してました。


そのときに井上さんが凄く良いこと言ってまして、


「結局は、人間を描けているかどうかだと思う」


井上さんは人間を描くことを最も重んじて創作活動をしていらっしゃる。

なるほどなーって凄く納得しました。確かにスラムダンクのキャラは人間くさくてイイ。

このヒントをもらってから作品を見る度に確信していったことですが、
アートのクオリティの中で一番パワフルな要素とは、
人間のリアリティ。
人の心を最も強く震わせたり、
奥深い味わいを楽しませてくれるのは、
人間の真実なんだ、と思うようになりました。

今ではシンガーソングライターでもクリエイターでも事業家でも、
本物を見抜く基準になる考え方だと思っています。

上野でやってた「最後の漫画個展」、
バガボンド好きの親父と僕の二人で行きましたが(笑)
ほんとうに天才だなって実感しながら語り合ったのを思い出します。


で尾田さんの話に戻りますね。wikipediaより引用です。

「ONE PIECEというファンタジーの世界で、どこかにリアリティを求めるとすれば、それは人間の感情だと思っている。そこはしっかり守っていかないと、全部嘘っぱちになる」
『ONE PIECE 10th Treasures』(2007)より

『ONE PIECE』は当初5年で完結させる予定だった。新しい島に行けば新しい仲間がいてすぐに仲間になってくれるから、1年半で仲間は全員集まるだろうとゲーム感覚で考えていたからである。ところが、キャラクターたちはゲームではなく、人間だった。麦わら帽子をかぶった手足が伸びる人間が現れて「海賊になろう」と言われても、仲間になってはくれない。相当なエピソードがなければ、仲間になろうとは思えない。そこが大きな誤算だった。
『ONE PIECE ぴあ』(2010)より


要は井上さんと同じで、「人間を描くこと」を最も重んじています。
ストーリーの展開というのは二の次で、
それは人物を描く延長線上に繰り広げられるにすぎないということでしょう。


僕がワンピース作中において、
尾田さんのこだわる人間のリアリティを一番感じるエピソードはロビンの話です。

ウォーターセブン&エニエスロビー編を思い起こして下さい。


ロビンは何故、麦わらの一味を裏切ったのでしょうか。


自分の命を犠牲にしても、仲間であるルフィ達が大切だから。


ではありません。
何度助けに来ても、
それを拒むしか出来なかった本当の理由は、


それほど大切な仲間に、
自分の存在を重荷に思われて捨てられるのが怖かったから。


これが永遠に続けば、どんなに気のいいあなた達だって、いつか重荷に思う!
 いつか私を裏切って捨てるに決まってる!
それが一番怖いの! だから、助けに来て欲しくもなかった!
いつか落とす命なら、私は今!ここで死にたい!

 
それを聞いたゾロが「そういうことか」と納得します。


ルフィ「ロビンの敵はよくわかった」

ルフィがそげキングに世界政府の旗を撃ち抜かせて宣戦布告します。


ロビン!!

まだお前の口から聞いてねェ

「生きたい」と言えェ!!!

世界中の正義であり最高の権力と武力を誇る世界政府に、
ロビンは家族と故郷の人々を見せしめで皆殺しにされています。
その後8歳にして高額の賞金首にされて追われ続けながら、
世界の闇に立ち向かう運命を一人で抱えてきました。

歴史の真実を知りたい。
だってお母さんも博士たちも皆、その為に死んでいったのだから。
世界の真実に近づく者ほど正義の名の下に殺されるのだろう。
もうオハラを背負うのは私しかいない。
でも仲間を巻き込むわけにはいかない。
真実を求めるオハラの精神を背負い、
悪魔の子として孤独に生きざるを得なかった人生を振り返り思う・・・


(生きる…!?

望んではいけない事だと思ってた…

誰もそれを許してくれなかった

もし本当に少しだけ望みを言っていいのなら…私は)


生ぎたいっ!!!

私も一緒に

海へ連れてって!!



サウロがクザンに凍らされる寸前に言ってましたよね。
母を失い、燃え盛る故郷から逃げる絶望の淵で。

よく聞けロビン・・・
今は一人だけどもよ・・・・・・・・!!


いつか必ず
〝仲間〟に会えるでよ


海は広いんだで・・・・・・・・
いつか必ず!!!

お前を守ってくれる〝仲間〟が現れる!!!

この世に生まれて
一人ぼっちなんて事は
絶対にないんだで!!!!


どこかの海で・・・
必ず待っとる
仲間に会いに行け!!!
ロビン!!!!

そいつらと・・・・・・
共に・・・生きろ!!!




何故この人物はそういう生き方を選択せざるを得ないのか、
という理由にこそ、
人間の真実を描くチャンスがあります。


尾田さんがワンピースで過去編を描く理由はそこにあるんじゃないでしょうか。
過去と今をつなげると、人物の信念と生き様を表現できる。
人間性がより深く、よりリアルに描かれて、
話の展開の説得力が大幅に増して面白くなる。


孤独を生きるしかなかったロビンが、ルフィ達の仲間になって初めてそうではなくなった。

一度捨てた命も…!失った心も、途絶えた夢も、みんな掬い上げてくれる。
こんな私を信じてくれる仲間ができた。

自分を本当に受け入れてくれる人。
自分を本当に信じてくれる人。
だからこそ、捨てられたくないロビンの気持ち。

痛いほど分かりますよね。




全てを明かさざるをえないほど、信じて踏み込んでくる仲間。
過去のトラウマも、背負った運命の大きさも知った上で、
助けを拒むのは捨てられることへの怖れであるという本当の理由を知った上で、
仲間であり続けるとは明確に世界を敵に回すことだと理解した上で、
なお一味全員が受け入れてくれることを示してくれた。



だから「仲間」に向かって「(ともに)生きたい」と泣きながら言えたロビン。

良く分かりますよね。その気持ち。


ロビンの真実が明かされて
ルフィ達がそれを全力で受け止めたこの41巻のストーリーを読んで、
僕は泣いてしまいました。ワンピースで唯一泣いた。


ああそうか、書いてて今気付いた。

人が人を救う。
心で心を救う。

僕はそういう人間の真実が大好きなんだ。
このシーンは作中で最も、
人が人を救うというリアリティが表現されているのではないだろうか。

「そういうことか」とつぶやいてゾロが腑に落ちたシーンをわざわざ挿入したのは、
描きたいリアリティのポイントはここだと尾田さんはあえて示しているのだろう。


読者は話の展開を読むのではない。
話を展開させる人物を読んで、創作された世界を体感する。


人間を描けているかどうか。
作品も世の中も、そんな視点で読んでみたらどうでしょう。

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