2013年4月5日金曜日

為替と株価はなぜ連動するのか

為替市場で円が安くなると、
ほぼすべての株価が高くなります。


それは一体なぜか。


為替と株価は、なぜ連動するのか。

先日、お金という世界観の問題にて問いかけをしました。


もし金融マンや上場企業経営者や政治家が、
一流の回答を示せないのなら、
その責任をまっとうする資質として一流ではない、と僕は言いました。


であるなら、
僕は答えを示さなければなりません。


自分の洞察が正しいかどうかは証明できませんが、
読んでいただく人の心で感じていただきたいと思います。

真実に迫るような説明力があるか。
社会を機能させるのに役立つ視点とインスピレーションがあるかどうか。




途中までは、一般的な説明を紹介しつつ、
経済の常識に基づいた説明をします。

人によっては小難しいですが、
最後は自分なりの簡略化した見方を示します。



問題。

なぜ為替と株価は連動するのか。



まずは経済学の教科書でも言われる一般的な説明です。


日本経済は輸出主導型の経済構造になっているため、
輸出に有利な円安・ドル高を歓迎し、
輸出に不利な円高・ドル安を警戒する傾向があります。

また円高が進むと、輸出関連株が売られ、
内需関連株が買われる傾向があります。
逆に円安が進むと、 輸出関連株が買われて、
内需関連株が売られる傾向が見られます。


テレビも新聞も、経済紙も昔っからそのように説明しているので、
このような見方をご存知の方も多いはず。


金融機関の営業マン(資産運用コンサルタント)も、
基本的にそう説明しています。

以前の職場でも、
顧客に市場動向を説明する際、
この理屈を伝える人がほとんどでした。


詳しく読みたい方はこの日経の記事を参考にして下さい。



しかし上記の常識は、
果たして本当に正しいと言えるでしょうか。


疑問①
内需株(ニトリ・ユニクロ等)も上昇している。
円安は無差別・無条件の全面株高ではないか。

疑問②
為替と株価の連動は、即時性が強すぎる。
業績を予想した歓迎や警戒のような、
事業価値を算定する判断の動きと言えないのではないか。

疑問③
そもそも、日本は輸出主導型の経済構造なのか。
高度成長期は間違いなくそうだっただろうが、
はたして今となっては、輸出主導とは一体どの程度なのだろうか。


最近、疑問①と疑問②を的確に答えている、
為替と株価の相関関係を説明する良い記事を見つけました。


【国際政治経済学入門】円安と株高はなぜ連動するか
Sankei Express 2013/03/13 より抜粋

2011年3月11日の東日本大震災から2年がたった。震災で株式市場は、
08年9月の「リーマン・ショック」以来の不振に追い打ちをかけられたが、
昨年11月16日の衆院解散総選挙決定を機に、一挙に上昇局面に転じた。
大胆な金融緩和政策を求める安倍晋三氏率いる自民党の政権奪還が
確実視されて円高是正とともに株が買われるようになり、
安倍政権発足で円安・株高に弾みがついた。

そこで円相場と株価の連動メカニズムを解明してみよう。

●日本株の比率一定に
本来、日本の株価は円の対ドル相場に連動する「法則」がかなり前から働いている。
理由について、
自動車、家電など輸出産業が円安で収益を増やし、円高では逆になる、
という説明が多いが、その見方は大ざっぱすぎる。

現実の株式市場は投資家の売り買いで動くのだが、
投資家は通常、現時点の相場水準ではなく、
円相場の動向が高くなる、あるいは安くなるという予想をまず立てて、
円高が進みそうだと日本株を売り、安くなりそうだと買うはずである。
予想が定着するまでにはある程度時間がかかる。

ところがグラフを見ると、
円相場と株価のアップダウンの動きはほぼ同時並行で進んでいる。
時間差はほとんどみられない。なぜか。

日本株の売買高の5割以上を占めているのは「外国人」である。
外国人の本拠はニューヨーク・ウォール街で、
かれらはグローバルな証券投資を展開している。
そのポートフォリオはドル建てで計算され、
米国株に対する日本株の比率はしばらくの間、固定される。

円相場が上がると、ドル建ての日本株時価は増えるので、
ポートフォリオでの日本株の比率が上がる。
すると、コンピューターによる自動売買プログラムが作動し、
日本株を売って、日本株の比率の上昇を防ぐ。

円安の場合、逆に日本株の比率が下がるので、日本株を買い増すようになる。
日本国内の投資家はこうした外国人の動向に敏感なので、
円安は買い、円高は売りというふうに追随する。
こうして、円安すなわち株高という現象が生まれる。
以下略
(産経新聞特別記者・編集委員 田村秀男)



僕の見解は田村記者と概ね同じです。




この説明を補足しつつ、僕の考えをまとめます。



①株価の動きは、将来の企業業績と為替レートの価値を予測した結果ではない。

価格形成は、価値への予測が集約された集合知ではなく、
価格への反射運動の連鎖。

※反射運動・・・特定の刺激に対して高い確率で起こる反応。
例えば、膝の皿あたりを叩くと、足が前に上がってしまう等

②東証一部の市場売買高の5割以上が外国人である。

それは、
日本株投資家の半数以上がドルベースで損益を測っており、
円と円以外のバスケット通貨で「時価」は形成されているということ。

③投資スタイルの金融業界の常識は、分散投資。

大きな資産を運用するプロは、
円とドルとユーロ、株と国債と不動産など、
通貨や証券の種類の保有割合の維持をルールとして定めている。
どのリスクをどの程度取るか、最適なリスク分散のあり方を検討し、
運用目的に合理的な資産へと組み合わせることを、ポートフォリオを組むという。


④為替レートの変動は保有割合が決定されている大量のマネーを動かす。

日本株の比率を原則通りに保つための取引を誘発し、時価を形成する。


⑤プロが最優先するのは運用の原則である。

投資の結果は預けた人の自己責任であり、
雇われであるプロはパフォーマンスが悪くても問題ない。
嫌なら自分で運用すればいい。
しかし雇われのプロが、クライアントとの約束である原則に背くことは、
内外から責められるべき事由。

そもそもポートフォリオ重視の投資家は、
売り買いのトレーディングで儲けようとしていない。

複数の金融資産の合理的な組み合わせを管理することで、
時間経過を味方にした利子によって、
安定的なパフォーマンスを得ようとしている。

従ってこのマネーの特徴は、運用ルールに従って、
為替レートに従順に反応して機械的に売買すること。


⑥コンピュータ技術の発達が為替と株の連動性を強めた。

為替レートが変動するとき、
それに反応して機械的に売買するマネーが市場において主流となる。

その効率をよくしているのは、
世界中の市場情報を集約するシステム、
それをもとに運用ルールに従って投資判断する自動売買プログラム、
運用会社と証券取引所の高速売買システムです。

売り買いの情報収集・判断・発注は瞬時に処理され、
為替レートと株価は時間差なく連動するようになる。



以上が、金融の常識に則った、為替と株価の連動性の説明です。



僕は田村さんの記事を修正して、もっと本質に迫りたい。


>円安の場合、逆に日本株の比率が下がるので、日本株を買い増すようになる。
日本国内の投資家はこうした外国人の動向に敏感なので、
円安は買い、円高は売りというふうに追随する。
>こうして、円安すなわち株高という現象が生まれる。


投資家は大きく3ついます。


(1)淡々とルールで動くマネー

(2)値動きに反応するマネー (多くは上がるから買う、下がるから売るという順張り)

(3)価値を将来予測するマネー



僕のイメージでは、
(1)と(2)は時価投資家、(3)は価値投資家です。 ※これは僕の造語です。

一番早いのは(1)のルールで動くマネーです。
彼らは機会的かつ利益を優先しないゆえに動きが一番早い。

その次に、(2)の値動きに投機する順張りマネーが追随します。
彼らは短期利益を追求しすぎるがゆえに、常に動きは2番手。


これら二種類の時価投資家のマネーによって、
為替と株価が連動するパターンは、
驚異的な再現性をもって繰り返されつづけて、
法則と呼べるまでになった。

と僕は考えます。


おそらく、
このパターンを形成する時価投資家は、
必ずしも外国人投資家とはいえません。

国内のプロ投資家も、
円建てとドル建てに分散し、それぞれに保有割合を定めています。

彼らも目先のパフォーマンスより、ポートフォリオ維持を重視しますから、
円安という為替変動への反応の仕方としては、
保有資産を円ベースで見て、
外国株の比率が上がるのでそれを売却し、
日本株の比率が下がるのでこっちを買います。


このポートフォリオの維持を重視するスタイルは、
日米欧問わず、世界の常識であり、
このマネーの動き方に、国籍の差はありません。

既に大量のドル建て資産を、
ポートフォリオ重視のマネーで所有・管理している日本人投資家のマネーも、
原理的に外国人と同じ動きをするからです。


さらに。

この値動きに追随する(2)の順張り時価投資家に関しても、
おそらく日本人の方が多いとは思いますが、
外国人投資家にも多数いるはずです。

日本人投資家による追随マネーが多いのは、
彼らに主体性がないというわけではなく、
日本人にとって地元である日本株は、
短期パフォーマンスを最優先する順張り投資が外国人よりも手軽に実行しやすく有利、
という単純な事実によっているのでしょう。


マネーの国籍の違いは、
分かりやすい理由のように見えて本質ではないのです。


以上のように、

為替レートと株価の連動性を真に説明するには、

現象として現れる一つの時価と向き合って、

その形成過程を総合しながら読み解かなければなりません。


最終的に行きついたのは、

マネーの流れの量ではなく、


どのような最優先事項を持ったマネーなのか、

という質の違いを見抜くこと


すなわち、

市場に参加する投資家のあり方の本質的な違いを見抜くことでした。



今日の、以前とは比較にならないほど驚異的な為替と株価の連動性は、
証券取引における情報処理技術の発達と、
分散投資の哲学が世界中で普及したことによる必然的な結果といえるでしょう。



ちなみに(3)の価値投資家について。
値動きに投機するのではなく、価値に投資する彼らは、
きちんと企業価値、通貨価値を予測します。
買うからには安く買いたい、と逆張りが多くなります。
イメージとしては、王道の中の最高峰であるウォーレンバフェットです。




本当は、もっともっと大胆に簡略化した説明をしたかったです。

肩叩き券などの比喩を使ったり、簡単なシミュレーションを示したりと、
いろいろ考えましたが、
余計に分かりにくくなる気がしてやめました。

僕は金融マンとして一流の資質ではなかったようです(笑)





一つ大切な視点を忘れていました。

為替変動と株価変動の連動性の説明として、
中期においても変動率の水準が酷似する理由を示さないと完璧ではありません。


次回はそれに加え、
僕が何故この問いを重んじているのかも含めて書きたいと思います。

参考「為替と株価はなぜ連動するのか②

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